2008年06月10日
追い掛けてきた看護婦
ある病院に入院中のAさんが、夜中にトイレに起きたときのことです。
トイレから出て自分の病室へ戻ろうと廊下を歩いていると、廊下のずっと先からガラガラと物凄い音が近付いてきます。
「なんだろう」と目を凝らしてみると、大きなワゴンに薬の入った瓶やピンセットをのせて押しながら、看護婦が走ってくるところでした。
ところがその様子が普通 ではないのです。静まりかえった病院内を、明かりもつけずに不自然なほどの騒音をたてながらものすごい形相でこちらに近付いてくる看護婦を見ているうちに、Aさんはとてつもない恐怖に襲われました。
あれは生きている人間じゃないぞ。とにかくやりすごせればいい、と思い、引き返して今出てきたばかりのトイレに駆け込みました。
それでも不安だったので、入口から4番目、一番奥の個室にこもって鍵をかけ、看護婦が通 り過ぎるのを待つことにしたのです。
遠くに聞こえていてガラガラというワゴンの音がいよいよ大きくなって、トイレの前に差し掛かりました。
が、ワゴンはそのまま通 り過ぎずに、こともあろうかトイレの前でピ タリと止まったのです。
Aさんは息をころしてワゴンが行き過ぎるのを待ちましたが次の瞬間、Aさんの漠然とした恐怖は本物になりました。
看護婦がトイレの入口のドアをあけて、入ってきたのです。コツ、コツ。看護婦の靴音だけがトイレの中に大きく響きます。
ギイ・・・入口から一番最初の個室のドアが開け放たれました。
コツ、コツ。2番目のドアが開けられます。
3番目のドア、次は…。
とうとう最後の4番目のドアに、看護婦の手がかかりました。
Aさんの恐怖は絶頂に達しています。
鍵がかかっていることを知ると、看護婦は狂ったようにドアノブをがちゃがちゃ鳴らしはじめました。
鍵を壊して戸をあけるほどの勢いに、Aさんは目をつぶったまま、歯を食いしばってドアノブをしっかり握って抵抗しました。
どれくらいそんな時間が続いたでしょうか。ふとドアの外が静かになりました。
「ああ、俺は勝ったんだ」大きな安堵感が込み上げてきて緊張の糸が切れたせいか、Aさんはそのまま気を失うように眠りこんでしまいました。
次の日の朝早く。うっすらと朝日が差し込んで、明るくなってきたトイレの個室でAさんは目を覚ましました。
「ああ、ゆうべはたいへんな目に逢ったんだった。」昨夜の出来事を夢のように思い出しながらドアを開けようとしましたが、おかしなことにドアはびくとも動きません。
鍵も外したし何かがひっかかっているのかな、と上を見上げたAさんは再度気を失いました。Aさんが目にしたものは、個室の上のすきまに指をかけて目だけで中を覗き込んでいる、ゆうべの看護婦の姿でした。
看護婦は諦めて行ってしまったのではなく、鍵を開けることができないと分かってから、一晩中Aさんを見張っていたのでした。
Aさんはその後すっかり朝になってから、同じ階の他の患者さんに助けられた。
トイレから出て自分の病室へ戻ろうと廊下を歩いていると、廊下のずっと先からガラガラと物凄い音が近付いてきます。
「なんだろう」と目を凝らしてみると、大きなワゴンに薬の入った瓶やピンセットをのせて押しながら、看護婦が走ってくるところでした。
ところがその様子が普通 ではないのです。静まりかえった病院内を、明かりもつけずに不自然なほどの騒音をたてながらものすごい形相でこちらに近付いてくる看護婦を見ているうちに、Aさんはとてつもない恐怖に襲われました。
あれは生きている人間じゃないぞ。とにかくやりすごせればいい、と思い、引き返して今出てきたばかりのトイレに駆け込みました。
それでも不安だったので、入口から4番目、一番奥の個室にこもって鍵をかけ、看護婦が通 り過ぎるのを待つことにしたのです。
遠くに聞こえていてガラガラというワゴンの音がいよいよ大きくなって、トイレの前に差し掛かりました。
が、ワゴンはそのまま通 り過ぎずに、こともあろうかトイレの前でピ タリと止まったのです。
Aさんは息をころしてワゴンが行き過ぎるのを待ちましたが次の瞬間、Aさんの漠然とした恐怖は本物になりました。
看護婦がトイレの入口のドアをあけて、入ってきたのです。コツ、コツ。看護婦の靴音だけがトイレの中に大きく響きます。
ギイ・・・入口から一番最初の個室のドアが開け放たれました。
コツ、コツ。2番目のドアが開けられます。
3番目のドア、次は…。
とうとう最後の4番目のドアに、看護婦の手がかかりました。
Aさんの恐怖は絶頂に達しています。
鍵がかかっていることを知ると、看護婦は狂ったようにドアノブをがちゃがちゃ鳴らしはじめました。
鍵を壊して戸をあけるほどの勢いに、Aさんは目をつぶったまま、歯を食いしばってドアノブをしっかり握って抵抗しました。
どれくらいそんな時間が続いたでしょうか。ふとドアの外が静かになりました。
「ああ、俺は勝ったんだ」大きな安堵感が込み上げてきて緊張の糸が切れたせいか、Aさんはそのまま気を失うように眠りこんでしまいました。
次の日の朝早く。うっすらと朝日が差し込んで、明るくなってきたトイレの個室でAさんは目を覚ましました。
「ああ、ゆうべはたいへんな目に逢ったんだった。」昨夜の出来事を夢のように思い出しながらドアを開けようとしましたが、おかしなことにドアはびくとも動きません。
鍵も外したし何かがひっかかっているのかな、と上を見上げたAさんは再度気を失いました。Aさんが目にしたものは、個室の上のすきまに指をかけて目だけで中を覗き込んでいる、ゆうべの看護婦の姿でした。
看護婦は諦めて行ってしまったのではなく、鍵を開けることができないと分かってから、一晩中Aさんを見張っていたのでした。
Aさんはその後すっかり朝になってから、同じ階の他の患者さんに助けられた。