解剖学教室の高給バイト

ドケット

2007年05月31日 13:20

 大江健三郎さんの小説に「死者の奢り」というのがあります。医学部解剖学教室の解剖用死体のメンテ?のアルバイトを高給につられてはじめた主人公の内面を鋭く描いた作品、と言うことなのですが、さすがノーベル賞作家だけのことはあり、この虚構は一人歩きしてしまい「解剖用死体の世話をする高給アルバイト」が存在する」という都市伝説が成立することになりました。

 でかいプールみたいなところに解剖用死体をストックしておいて、ホルマリンにちゃんと浸かるように定期的に沈めるような事をやってる解剖学教室があるとは思えません。

 場所とホルマリンが無駄じゃないですか。小さい風呂桶サイズを必要数だけ揃えて管理すれば済むこと。大学にはそういう施設があるのだ、と仮に認めたとしても、そういう作業に高給だしてアルバイト雇うはずがないんです。基礎系の教室には金なんかありませんからね

 大学の解剖実習室にアンチャン風の若者数人がやってきて、教官に「死体の世話をするバイトがあるはずだ」とせまり、追い返されたという実話があります。少なくとも20年前まではかなり具体的な伝説として成立していたようです。

 ベトナム戦争当時、「戦死した米兵の死体をきれいにする高給バイト」というのが噂されたことがありますが、エンバーミングという死体をきれいに復元する技術の講座を持った大学があるアメリカが、素人を高給で使うわけないじゃないかと考えれば、これも上のバリエーションということがわかります。

 最近こう言うのを聞かなくなった理由の一つとして、昔の「高給」というのがいまのマクドナルドのバイト代+αぐらいのモノだった、ということもありますか。お金への執心といっても、昔のハングリーさは失われ、どうしてもお金が欲しければ男女問わず援助交際でもしようかという今日この頃、なにもわざわざ死体と付き合うことないですものね。

 最近でもこの「伝説のバイト」は時々噂になるようです。高額のバイトと言う側面よりも、怖いもの見たさの要素が強く、死体の様子が妙にホラー系に強調されていたりします。一日8500円だった、などとえらくセコめに具体的だったりするのが面白いですね。

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