露店
ある若い夫婦が、露店をめぐっていた。
これは毎年、新盆前に立つ市で、仏様に供える色とりどりのお菓子を売る店がいくつか並ぶというものである。
時間は夜。
店の上には電線があり、そこから電球が一定の感覚で並んで、垂れ下がっている。
そのオレンジ色の光に、お菓子の色がよく映えた。
「きれいね…」と、妻は見とれている。
特に仏様用に買おうという気持ちはなく、多分に冷やかしだった。
だが、もちろん売り手の親爺の声は愛想がいい。
「よっ!お嬢さん!安くしとくよ」
そう言いながらも、小さなスコップで菓子をすくい、ビニール袋に入れる。
それをハカリに乗せて、値段を客に告げる。
「半端な分はサービスだよっ!」
妻はそんな様子を尻目に、お菓子を眺めていた。
すると夫が、
「ちょっと俺、先、車に戻ってるわ」
「えっ?何で?」
夫の急な態度に思わず聞き変えす妻。
しかし夫は、
「うん…おまえもすぐ来いよ!」
と、あいまいに返事してきびすを返すと、人込みの中に入っていってしまった。
妻はそれからしばらくお菓子を見て、車に戻った。
夫はタバコをふかしながら音楽を聞いている。
「ちょっとぉ!何で先に帰っちゃうの?」
と、ふくれた顔で言って夫の顔を見ると、こわばっていた。
「何?怒ってるの?」
「いや…違うんだ…」
「じゃあ、どうして…?」
「あのな、よく聞けよ」夫は正面を見る。
「おまえがお菓子見てた店でさ…
小さい子供の顔がたくさん浮かんでたんだよ。そいつらがな…みんな…
いいなあ…欲しいなあ…って口々に言いながら、お前の背後にまとわりついてたんだよ・・・」
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