累ヶ淵

ドケット

2008年02月11日 12:17

あるところに食い詰めた浪人がいた。いよいよ銭に困って高利貸しの坊さんに金を借りる。
しかし期限がきても浪人には返すあてが無い。
そのうち坊さんが取り立てにやってきた。
「金利だけでも返せ」
「もう少し待ってくれ」
のやりとりの末、
「それではこれを代わりに頂きましょう」
と床の間にあった刀を持ち出そうとする坊主。
「おのれ坊主!武士の魂に手を掛けたな!」
と浪人は一刀のもとに坊さんを切り捨てた。

「…元はと言えば、返さぬあなたが悪いのに…」
坊さんは恨めしそうに浪人を睨みつけながら絶命。

その後、浪人は旗本に仕えることになり、嫁をもらい子どもをもうけた。子を
「累(かさね)」
と名づけ幸せな日を過ごしていた。

三年が過ぎた。近所の寄り合いに出た帰り道、とっぷりと夜が更けた夜道を、累を背負って家路を急ぐ武士は妙な事に気が付いた。
背中が重い、息子は大きくはなったがこんなに重くはない。
足を進めるたびに重さを増してゆく背中が気になって武士は肩越しに振り返った。

「こ ん な 夜 で ご ざ い ま し た な あ」

おぶっていたのは何時ぞや切り捨てた坊主だった。
「うわわっ!」
と坊主を振り落とし
「ばけものめ!」
腰の刀を抜き斬り付けた。
「うぎゃあ」
悲鳴に我に返った武士が落ち着いてよく見ると、そこには頭を断ち割られた累の屍骸が転がっていたのだった。

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