飛び交うもの

ドケット

2007年12月06日 19:40

あるカップルが休日を利用して地方へドライブに出掛けていた。
その帰り道のこと。彼の運転する車は暗く静まり返った夜の峠道を走っていた。
二人は談笑しながら車を走らせたが峠の中腹あたりに来ると何やら異変が起こり始めた。
急に濃い霧が車を包み込み視界を閉ざした。
「霧…?昼はあんなに晴れていたのに…」彼女が呟いた。
プツンッ、ザー…ザー…
車の中で聴いていたCDの音楽が突然途切れてノイズ音に変わった。
「…………」
やがて車の中は嫌な空気に押し潰されるようにどんよりとしていった。外の霧はますます深くなっていくようだった。
ギィ…ギィ…ギイヤハハハ!
沈黙を破ったのはCDプレイヤーから流れる奇怪な笑い声だった。
「あれ何だ……?」
彼は呟いた。
「どうしたの?」
彼女が聞くと彼は指さしながら言った。
「前!見てみろ」
霧が広がるぼんやりとした視界の中、何かが周りに浮かんでいた。視界が暗くよく見えないが丸いバレーボールのようなものだった。
十数個はあるだろうか。ソレは車の周りをぐるりと囲んで浮いていた。
たまらず彼は車のスピードを上げる。
その直後、車の周りに浮かんでいたものが「ギャハハハ」と狂った笑い声をあげながら車にぶつかってきた。
グシャッ…ベチャッ…
まるで腐ったスイカが当たって砕けたかのようにガラスに赤い汁と何かの破片が張り付いていた。
ぶつかる寸前に二人はその正体を見ていた。空中に浮かんでいたのは大量の生首だった。
ぐちゃぐちゃになって何だか分からなくなった肉の破片をつけたまま彼は車を飛ばした。
気が付くと二人は峠を越えた街のコンビニに車を停めていた。
ガラスについていた肉の破片はいつの間にか消えていた。
後で聞くところによると、その峠道では昔、戦が行われ、たくさんの人間が首を狩られたのだという。
二人は相変わらず今でもよくドライブをしているが、あんな酷い体験はそれ以来一度も無いという。


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